札幌高等裁判所 昭和41年(ラ)26号 決定 1966年12月26日
抗告人 堀川伊一(仮名)
相手方 堀川孫太(仮名) 外三名
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙の通りである。
一 抗告理由第一点について
抗告人提出の北海道知事の農地法第三条の規定による許可書によれば、原審判添付第一目録(8)記載の不動産(畑)につき、被相続人文吾の死亡後である昭和二八年九月二八日同目録記載の(1)、(3)、(5)の各不動産とともに被相続人から抗告人への贈与に対する北海道知事の許可がなされたことが認められる。しかしながら本件記録によれば、右農地等の贈与については文吾の生前から問題があり、これに端を発して文吾の遺産の分配について相続人間に紛争を生じたいきさつもあって、抗告人は本件遺産分割の申立をするについても、あえて右(8)の土地についての権利を主張せず右土地は当然文吾の遺産に属するとして終始その分割を求めていることが認められる。そして当審における相手方初吉審問の結果によれば、右(8)の不動産は昭和二一年までは相手方初吉が耕作していたが、昭和二一年中被相続人に返還するを余儀なくされ、爾来抗告人方で耕作していることが認められるが、抗告人は原審判添付第三目録記載(1)ないし(4)の土地、同第四目録記載の(1)、(2)、(3)、(5)の建物(尤も右(5)の建物は鑑定の結果によれば現存していない。)の贈与をうけ、相手方等に比し格段の特別受益を得ていること、相手方初吉は昭和一三年頃から前記(8)の不動産を含む被相続人所有及び賃借中の農地約一三町位を耕作してきた専業農家であるところ、昭和二一年に至り被相続人及び抗告人から右(8)の農地を無理に取り上げられたこと等からこれが取得を望んでいること、相続人等のうち右不動産所在地に居住して農業に従事しうるものは抗告人と相手方初吉の二人だけであり、右両名の農地の分配の衡平を計る意味からも右(8)の農地を相手方初吉に取得させたことは十分に首肯しうるから、右土地を相手方初吉の所有として原審判は正当というべきであり、抗告人の主張は採用のかぎりでない。
二 抗告理由第二点について
抗告人の主張する、被相続人が相手方初吉の分家に際し同人の生計の資として「種子、労力、資材」を贈与したことを認めるに足る証拠はなく、況んやその価格についての証拠は何ら存在しないのであるから、原審がそれらの価格を相手方初吉の特別受益として計上しなかったのは相当である。従って右抗告人主張は採用し得ない。
三 抗告理由第三点について
原審判添付第四目録記載の建物につき、被相続人から抗告人に対し昭和二三年一〇月一二日付で同月一〇日付贈与を原因とする所有権移転登記がなされていることは記録上認められるが、抗告人の主張するように右目録(5)に表示された建物が同目録記載(4)の建物の誤記であると認めるに足る証拠は何ら存在しないばかりでなく、原審での鑑定人福士文治の鑑定の結果によれば、右(5)の建物は鑑定当時存在しないとして評価されておらず、その価格は抗告人に対する特別受益分として計上されていないことが認められるから、右抗告人の主張も理由がない。
四、抗告理由第四点について
記録によると抗告人がその主張の被相続人の債務弁済のため或る程度の出損をなしたことが窺われるが、相手方等も右弁済のため相当の出損をなしたことが認められるので、右債務の弁済が抗告人のみによってなされたものとすることはできない。抗告人が被相続人に対し立替金債権を有したとしても、被相続人の債務すなわち相続債務はそれが可分のものであれば相続開始と同時に当然相続人間に分割相続され、遺産分割の対象たる相続財産を構成しないものと解するを相当とするから、右抗告理由前段の事情は遺産分割に当って考慮すべきではなく、また抗告人が被相続人死亡に至るまで被相続人と同居し扶養していたことは記録上明らかであるが、右扶養されたことによる被相続人の債務も前段説示するところと同一の理由により遺産分割に当り考慮さるべきではない。本件においては抗告人は被相続人から前段説示の通り相手方等に比し格段に多くの不動産を贈与されているのであって、右贈与された不動産が特別受益分として計上されたとはいえ、右各不動産を使用することにより被相続人を扶養するに要した費用を償って余りある収益を挙げたものと認められるから、原審判には抗告人の主張するような違法の点はなく右抗告理由も採用することができない。
よって原審判は相当であり本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし抗告費用は抗告人に負担させて主文の通り決定する。
(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 今富滋 裁判官 潮久郎)
(抗告理由省略)